トップページ > 諸国探訪記 >2005年5月 郡上八幡旅行記
2005年、郡上八幡を訪れました。郡上は岐阜県のちょうどまんなか、山間部に位置する清流に育まれた自然の多いまち。千葉介常胤の六男・東六郎大夫胤頼の子孫が広く繁栄した山里です。東胤頼の子孫、東胤行はここに所領を給わり、子孫が移り住みました。彼らは武人ながら、代々すぐれた歌人でもあり、郡上には池泉式の風流な庭園がつくられていました。
東京から郡上までは新幹線、長良川鉄道を乗り継いで約4時間もかかります。岐阜からの道のりが一番長いですが、この長良川鉄道の周囲は素晴らしい景観が広がっています。
「美並苅安駅」に到着し下車。美並苅安駅はレトロな駅で、壁と一体化しているベンチとちょっと汚れた格子のガラス戸がいい雰囲気を出しています。駅についてすぐ電車に乗れる。。。駅は本来こういうものでしょう。
美並苅安駅から少し歩くと、「林広院」という曹洞宗のお寺があります。このお寺の裏山が中世のお城(鶴尾山城)の跡です。東氏の重臣だった遠藤氏の旧跡で、寺の上に上る道もありますが、ちょっと疲れそうなので、お寺にお参りだけして次の目的地へ。
林広院の前の細い小道を南へ向って数分歩くと、「乗性寺」という浄土真宗のお寺があります。
乗性寺は鎌倉期、この地に隠居した東胤行入道素暹が建てた草庵が発祥といわれている由緒のお寺で、室町時代末期に西教坊というお坊さんが開山となって戸谷寺を建立。江戸時代初期に郡上藩主遠藤慶利が、祖父の遠藤慶隆の法名(乗性源心院)にちなんで乗性寺と改めたとか。
参道の先、数十メートル先に木造の山門があります。門前には親鸞上人の像が建っています。山門をくぐると、左手に本堂、正面には廊下で本堂とつながれた御霊屋があります。本堂の屋根の真ん中には、郡上遠藤家の家紋である「亀甲内に花菱」が置かれていました。
実は、今年(2006年)の大河ドラマの山内一豊の妻・千代は、ここ郡上が実際の生誕地です。千代(遠藤慶隆妹)の母親(友順尼)もこの寺で剃髪しています。司馬遼太郎の小説『功名が辻』では近江出身とされていますが、これは彼が執筆した当時、高知や郡上にあった千代の生誕地についての史料が未発見だったためで、いわゆる通説だった近江出身説に基づいて小説は執筆されてしまいました。
遠藤家と山内家の関係は、江戸時代になっても見ることができます。まず、見性院(千代)を通じて山内家にもたらされたと思われる『定家卿小倉色紙』『東下野守常縁筆古今集』が、山内家から徳川家に献上されました。また、松代藩主・真田信直が流罪になったとき、連座した信直次男・武藤源三郎信秋(母は山内忠豊娘・松姫)が預けられたのが、郡上四代藩主・遠藤右衛門佐常信でした。これは親類預けということでしょう。
【郡上藩主】
遠藤盛数 +―遠藤慶隆――遠藤慶利――遠藤常友――遠藤右衛門佐常信
∥ |
∥ | 【土佐藩士】
∥―――――――――+―遠藤慶胤――遠藤亮胤
∥ | →見性院の「御由緒」によって召し出される。
∥ |
東常縁―……―東常慶――友順尼 +―見性院(山内一豊の妻)
→『東下野守常縁筆古今集』を伝授→
∥
【土佐藩主】
+―山内一豊==山内忠義―山内忠豊―+
| |
+―山内康豊――山内忠義 |
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+――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――+
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+―松姫
| ∥―――――武藤信秋
| 真田信直 ⇒父・信直の配流に連座し
| 遠藤右衛門佐常信に御預(親族預けか)
|
+―山内豊昌
⇒家督相続に当たり、父・忠豊が御台所に『定家卿小倉色紙』献上
⇒逝去に当たり、桂昌院殿に『東下野守常縁筆古今集』一冊献上
御霊屋の裏手の高台にいくつか古げな墓石が見えましたが、遠目では東氏や遠藤氏とは確認できず。
本堂と御霊屋にお参りして、境内をぐるりと見渡してみました。車が走る道路は少し離れているので、静かな境内。広くはないけれど森の中に埋まって落ち着きます。
乗性寺をあとにして美並苅安駅に着きましたが、次の電車が来るまではまだ1時間以上もあります。意外に早く用事が済んでしまい、ヒマをつぶせそうな場所もありません。ちょっと早いですが、昼飯がとれそうな店を探すと、道路から駅へ向かう道の角に喫茶店らしき店がありました。一軒家の軒先を喫茶店にした感じの小さな店で、さっそく店内に入ってみました。
店に入ると、使い込んだ感じのソファ、家族経営的なアットホームな雰囲気が滲み出しています。雰囲気はいいです。
しかしこの店、注文してから出てくるまで異常に長い。トーストひとつに20分以上かかってるっておかしくないですか。時間はまだあるので問題はないのですが、急いでいたらキャンセルするレベルかも。普通は商売にならないでしょう。ただ、その後出てきたトーストとサラダは意外にも良かったです。
店を出て駅へ行くとあと七分。駅舎の窓から外を見ると山がよく見え、春風がいい。駅のコンクリートの割れ目からはぺんぺん草が生えていました。